病院や保険薬局で働いている薬剤師さんは『認定実務実習指導薬剤師』の資格は取っているでしょうか?
この資格を取得することで6年生の薬学部学生を受け入れて指導する権利を得ることができますが、持つことによって転職市場で大きなアピールポイントになり得る”実践的な資格”です。
この記事では、この資格がどのようなメリットがあるのかを経営者の目線で解説したいと思います。
認定実務実習指導薬剤師とは?
日本薬剤師研修センターを見てみますと、シンプルに薬学生に対して指導をするために必要な資格と書いてあります。
薬学部は6年生になってから病院実習と薬局実務実習が必須となり、学生が薬剤師免許を取るためには病院や薬局の協力が不可欠となりました。
その学生教育の一部を担える資格となり、社会的意義もあると考えられますね。
認定を受けるにはざっくり言うと
と言った感じで研修を受けるだけでなく勤務歴を問われるなどである程度のハードルが求められています。
未来の薬剤師を育てる立場となるのである程度の経験は当然ですね。
本業はMRで土曜だけ薬局で勤務しているんですと言う人では難しいですが、普通に病院や保険薬局に勤めていれば条件としてはクリアできるものだと思います。
認定実務実習指導薬剤師(学生実習)の経営におけるメリット
研修を受けて認定を受けるこの資格ですが、勤務されている薬剤師はどのくらい経営に影響するかを考えたことがあるでしょうか?
実習生を病院や薬局が受けることによるメリットを経営者目線で見ていきましょう。
薬局の臨時収入となる
実習生を11週間受け入れてカリキュラムに沿って指導を行う対価として薬科大から報酬をもらうことになります。
2008年と少し古いですが、薬事日報の記事に【薬学生の実務実習標準額】11週間27万円で決着と言う記事がありますが、薬局は大体30万円弱の金額を受け取ることができます。
今でもその金額は大きく変わっていないと考えられます。
薬局の主な報酬は医療機関からの処方箋であり、それ以外の収入を作るのは難しいため貴重な収入源となります。
将来の社員候補の発掘につながる
多くの薬局は薬剤師を雇うためにエージェントに数百万というお金を払ったり、友人にひたすら声をかけて人材を探しています。
多くのお金を払ったり労力をかけて採用した人材でも、いざ働いてみると『思ったのとぜんぜん違うな🤔』ってことが発生します。
実習生は11週間と言う長い時間を一緒に過ごし、薬局側からするとどんな人柄なのか?学ぶ意欲はあるのか?などを知ることができますし、実習生からすると『この薬局で働きたい!』と強い思いを持ったときに実習生が実習先に就職することになります。
面接という30分程度話をした人と、11週間と言う時間をときには食事をともにしたりした関係の人とではその人への理解力もかわるためよりマッチした就職となる可能性が高くなります。
職場の活性化となる
「若い人」はいるだけで職場が明るくなるものです。
中小企業の良い薬局ほど職員が辞めることなく働いてくれることになり、10年以上人が全く変わらないと言った職場も珍しくありません。
そのような薬局は経営は安定していますが、学生というフレッシュな人材が入ることにより現場の職員の刺激となります。
特に指導薬剤師にとって学生に教えるということは内容を理解していないと教えることはできないため、改めて勉強する良い機会になります。
年齢を重ねた経営者兼指導薬剤師が学生から『調べ物はChatGPTなどのAIを使うとすごい早く調べられますよ!』というように、薬剤師以外のことは学生から学ぶことも多いです。
認定実務実習指導薬剤師(学生実習)の経営におけるデメリット
様々なメリットを考えてみましたが、学生実習を引き受けることによりもちろんデメリットも存在します。
デメリットを知ることでそれを上回るアピールに繋がるので考えてみましょう。
指導薬剤師の負担が大きい
最大のデメリットとしては指導薬剤師の手間がかかることです。
特に最近の実習のカリキュラムとしてはじめに薬局を行い、その後に病院実習と順番が決まっています。
社会人として新卒採用した人であれば採用面接や薬局の見学を経て現場に来るためある程度選ばれた人が働く意志を持って薬局にきますし、実習を経験しているため薬剤師の仕事がどんなものなのかを知ったうえで職場に入ることになります。
一方で学生はカリキュラムの一部として薬局に来るため

はじめまして、薬剤師がどのように仕事をしているのか学びに来ました!
と言った感じで、実際に処方箋も見たことのない人を「処方箋の見方」から教える必要がありかなり手間がかかります。
指導担当薬剤師は大抵の場合、管理薬剤師がなることもあると思いますので普段でさえ仕事量が多いのにそれに加えて人を教えるという大きい負担がかかることになります。
また、麻薬や毒薬の管理を預かる薬剤師にとって外部の人をいれるということはそれだけ神経を使うため管理コストが上がるというのも大きなデメリットとなります。
実習時期を選べない
学生実習を統括している薬学教育協議会によって実習日程が公表されています。
例えば令和8年のスケジュールは以下のとおりです。
- 第一期 2月16日(月)~5月3日(日)
- 第二期 5月18日(月)~8月2日(日)
- 第三期 8月17日(月)~11月1日(日)
- 第四期 11月16日(月)~2月7日(日)
薬局→病院の順に実習が行われるため、薬局の実習は第一期~第三期となります。
実習に関しては前年度に『来年の実習生の受け入れどうします?第◯期に何人ずつ受け入れられるか教えて下さい!』と地域調整機構からアンケートが来ます。
薬局が受け入れられる時期を選べるためある程度調整は可能ですが、そもそもの実習の日程が確定しているため受け入れ先はそれに合わせて人員を配置するなど調整が求められます。
耳鼻科の近くにある薬局が花粉症時期に実習生を迎え入れる、たまたま学生が来ているときにコロナのような感染症が爆発して夜中まで残業しなければならない、たまたま人が辞めたけど実習生が来てしまったからなんとかやりくりするなど、受け入れ時期が決められているため融通を利かせるのが難しいです。
実習生を受け入れるとなると必ずその時期に認定者を配置する必要がある
薬局が1店舗経営であり『開設者=管理薬剤師=指導薬剤師』であれば問題ないのですが、雇っている薬剤師が指導薬剤師の場合、実習生の受け入れが決まった後に指導薬剤師が辞めてしまうリスクもあります。
日程調整から実際の実習までは最大で1年以上期間が空いてしまうため、万が一指導薬剤師が辞めてしまった場合に受け入れを辞退するか代わりの人員を配置するなど余計な仕事が増えてしまいます。
管理薬剤師の他の薬事の禁止や地域支援体制加算、かかりつけ薬剤師などその薬局で長期的に常勤で務めることによって取得できる加算も増えてきた事から簡単に薬剤師の店舗間移動はできなくなっています。
実習を辞退すれば薬局の信用が傷つき、店舗間の移動をすれば従業員からの不満が出るなど人が辞めてしまう可能性があることは考えなければなりません。
転職市場での評価は?(個人的感触)
それでは転職を考えているうえで『認定実務実習指導薬剤師』はプラスになるのでしょうか?
いろいろな人が面接をしているのを聞いていますが、残念ながら面接時に聞かれるのは『薬剤師研修センターの認定』『運転免許』『その他の認定』くらいなので多くの企業がそれを求めていないのが現状です。
ただし私の個人的なイメージで言うと企業がその価値に気づいていない可能性があります。
実習生を受け入れることによって
- 金銭的な収入がある
- 将来の薬剤師採用につながる
- 職場が活性化される
というメリットを伝えながら、『もし実習生が来るならその期間は勤め上げます!』『実習生の受け入れマニュアルは頭に入っているので会社用のマニュアルも作成します!』と言った感じで自分自身で会社の実習生受け入れ体制を整えるお手伝いをすることができれば、転職先の企業にとって大きなプラスとなります。
企業が気づいていないメリットを挙げて転職の武器の一つにしていきましょう!
まとめ
認定実務実習指導薬剤師は経営的にもメリットが多いですし、学生へ指導することは勉強にもなりいくつかのデメリットはあるものの指導者自身のメリットが上回ると思います。
転職市場でアピールできるのはもちろん、現在の職場で誰も持っていないのであれば積極的に取得して個人としてのスキルアップとしても捉えられます。
・誰かに教えるのが好き
・人の入れ替わりが少ない職場なので何かを受け入れたい
・転職を考えていてなにかアピールポイントがほしい
と言った人は普通に勤務をしていれば資格取得のチャンスはありますのでぜひ取得を目指してみましょう。
コメント