2026年度の調剤報酬改定で、薬局で働く職員の賃上げを支える仕組みとして「調剤ベースアップ評価料」が新しくできました。
業界団体の調査では「算定している薬局は97.9%」という結果が出ています。ほぼすべての薬局が取り組んでいるように見えますが、本当でしょうか。
そこで今回は、東北厚生局が公開している名簿をもとに、福島県内の保険薬局893施設を1軒ずつ数えてみました。すると、業界団体の調査とはかなり違う姿が見えてきました。
結論:福島県の届出率は78.8%。中小の薬局は10軒に3軒が届け出ていない
令和8年9月1日現在の福島県の薬局の名簿には893薬局が載っています。このうち、受理番号の欄に「調剤ベ」(調剤ベースアップ評価料)の記載があったのは704薬局でした。
| 項目 | 薬局数 | 割合 |
|---|---|---|
| 福島県内の保険薬局 | 893薬局 | 100% |
| 調剤ベースアップ評価料の届出受理あり | 704薬局 | 78.8% |
| 名簿上で届出を確認できなかった薬局 | 189薬局 | 21.2% |
- 福島県ではおよそ5薬局に4薬局が届け出ている
- 大手チェーンはほぼ全店(96〜99%)が届出済み
- 中小の薬局が多い区分では71%にとどまり、約3割が届け出ていない
- 福島市の中小の薬局に限ると62%。地域によっても差がある
業界団体の調査では算定率97.9%。なぜこんなに違うのか
日本保険薬局協会が2026年8月に公表した調査では、回答した4,725薬局のうち4,626薬局が調剤ベースアップ評価料を算定しており、算定率は97.9%でした。
福島県の78.8%よりかなり高い数字ですが、2つは調べ方が違うため、単純には比べられません。
協会の調査は、管理薬剤師に答えてもらうウェブアンケートで、回答した薬局の89.0%が「300薬局以上」のグループに所属していました。大手チェーンの回答が中心で、会社単位でまとめて届け出やすい薬局が多かったと考えられます。また、2026年6月時点の状況を7月に聞いたものです。
一方、この記事の78.8%は、名簿に載っている福島県内のすべての保険薬局を対象にしており、個人経営や小規模な薬局も含まれます。
| データ | 対象 | 時点 | 割合 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 日本保険薬局協会のアンケート | 回答した4,725薬局 | 2026年6月 | 97.9% | 大手チェーンの回答が中心 |
| 福島県の届出受理名簿(本記事) | 県内の保険薬局893施設 | 2026年9月1日 | 78.8% | 名簿上で届出受理を確認した割合 |
つまり、「全国の薬局の97.9%が算定している」と言うのは正確ではありません。正しくは「協会の調査に回答した薬局では97.9%が算定していた」という結果です。このあと見るように、福島県のデータを規模別に分けると、その理由がはっきりします。
そもそも調剤ベースアップ評価料とは
薬局が処方箋を1枚受け付けるごとに、国から上乗せでもらえる報酬です。厚生局への届出が必要です。
| 金額 | 処方箋1枚につき4点(40円)。2027年6月からは2倍(8点)になる予定 |
| 使い道 | 全額を対象職員の基本給や毎月の手当の引き上げと、それに連動する賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に使う |
| 対象になる人 | 40歳未満の勤務薬剤師、事務職員(事務職員は年齢の条件なし) |
| 対象にならない人 | 40歳以上の薬剤師、管理者(管理薬剤師)、開設者・経営者、業務委託の人など |
たとえば月1,000枚(大体1日40枚くらい)の処方箋を受け付ける薬局なら、月4万円が賃上げの原資の目安です。実際の金額は、処方箋の枚数や対象職員の人数によって変わります。
つまり、届け出ている薬局で働く若手の薬剤師や事務職員は、その分だけ給料が上がる仕組みです。逆に、届け出ていない薬局ではこの上乗せがありません。
結果① 薬局の規模で大きな差
薬局は、グループの大きさなどによって「調剤基本料」の区分が分かれています。この区分ごとに集計すると、はっきりした差が出ました。
| 区分 | 主にどんな薬局か | 届出あり | 割合 |
|---|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 中小・個人の薬局が中心 | 361 / 512軒 | 71% |
| 調剤基本料2 | 特定の病院に処方箋が集中する薬局など | 20 / 25軒 | 80% |
| 調剤基本料3イ | 大手チェーン | 133 / 134軒 | 99% |
| 調剤基本料3ロ | 大手チェーン | 70 / 73軒 | 96% |
| 調剤基本料3ハ | 大手チェーン(ドラッグストア系など) | 111 / 137軒 | 81% |
| 全体 | 704 / 893軒 | 78.8% |
大手チェーンは本部がまとめて手続きをするため、ほぼ全店が届け出ています。協会の調査で97.9%と高く出たのは、この層の回答が多かったためと考えられます。一方、中小の薬局は届出や毎年の報告を自分たちで行う必要があり、対応が分かれているようです。
結果② 地域による差
| 地域 | 届出あり | 割合 |
|---|---|---|
| 須賀川市 | 27 / 31軒 | 87% |
| 白河市 | 25 / 29軒 | 86% |
| 喜多方市 | 16 / 19軒 | 84% |
| 郡山市 | 126 / 151軒 | 83% |
| いわき市 | 155 / 191軒 | 81% |
| 本宮市 | 12 / 15軒 | 80% |
| 二本松市 | 19 / 24軒 | 79% |
| 会津若松市 | 56 / 73軒 | 77% |
| 福島市 | 129 / 171軒 | 75% |
| 相馬市 | 12 / 17軒 | 71% |
| 南相馬市 | 23 / 33軒 | 70% |
| 伊達市 | 18 / 29軒 | 62% |
| 伊達郡 | 10 / 18軒 | 56% |
薬局の数が少ない地域は、数軒の違いで割合が大きく動くので、あくまで目安として見てください。
結果③ 福島市の中小薬局は62%
| 福島市の薬局 | 届出あり | 割合 |
|---|---|---|
| 大手チェーン(調剤基本料3イ・3ロ) | 37 / 38軒 | 97% |
| 大手チェーン(調剤基本料3ハ) | 30 / 33軒 | 91% |
| 中小規模の薬局が多い(調剤基本料1) | 59 / 95軒 | 62% |
福島市で中小の薬局への転職を考えているなら、およそ3軒に1軒は評価料を届け出ていないということになります。
結果④ ほかの加算に積極的な薬局ほど届け出ている
| 薬局の状態 | 評価料の届出あり |
|---|---|
| 地域支援の加算を届け出ている薬局 | 82%(692 / 841軒) |
| 地域支援の加算を届け出ていない薬局 | 23%(12 / 52軒) |
| 医療DXの加算を届け出ている薬局 | 87%(660 / 761軒) |
| 医療DXの加算を届け出ていない薬局 | 33%(44 / 132軒) |
ほかの加算をきちんと取っている薬局は、ベースアップ評価料も届け出ている傾向がはっきり出ました。制度の変化に合わせて手続きをこなせる体制があるかどうかが、そのまま表れているように見えます。
届け出ていない=賃上げしていない薬局、ではありません
名簿で届出が見当たらないことだけを理由に、「賃上げをしていない薬局」と判断することはできません。次のような事情も考えられます。
- 働いているのが40歳以上の薬剤師や管理薬剤師だけで、そもそも対象になる職員がいない
- 評価料とは別に、自社の財源で賃上げをしている
- 9月1日より後に届け出たため、名簿にまだ反映されていない
- 小さな薬局では、届出と毎年の報告の事務負担が重い
また、今回数えたのは実際の請求データではなく、施設基準の届出の受理状況です。厳密には「実際に請求した薬局の割合」ではなく、届出が受理されて算定できる状態にある薬局の割合を示しています。
転職を考えている人へ:確認したいこと
① 届け出ているかを名簿で調べる
気になる薬局があれば、厚生局の名簿で「調剤ベ」の記載があるかを確認できます。調べ方は薬局の厚生局への届出(加算取得)状況を確認する方法で詳しく解説しています。
② 面接で「どう配っているか」を聞く
届け出ていても、実際にどの職員へ、いくら、どんな形で還元しているかは薬局によって違います。求人票や面接では、次の点を確認しましょう。
- 評価料による賃上げを、基本給と手当のどちらに反映しているか
- 対象になる職員の範囲(自分が対象になるか)
- 2027年6月に点数が2倍になったら、配分はどうなるか
- 昇給の仕組みや賞与の計算方法
- (40歳以上の方は)評価料の対象外の職員の賃上げをどう考えているか
月給の総額だけでなく、基本給、固定の手当、賞与、昇給の仕組みまで確認することが大切です。きちんと答えられる薬局は、制度を理解したうえで職員の給与を考えている証拠です。
薬剤師と事務職員で基本給は違いますが、ベースアップ評価料の手当ての配分は同じでも構いません。目安として対象職員に対してどのように配られるのかは知っておいて良いでしょう。
薬局経営者が注意したいこと
調剤ベースアップ評価料は、届け出れば自由に使える収入ではありません。職員の賃金改善に充てることが前提で、毎年8月には厚生局への賃金改善の報告(中間報告・実績報告)も必要です。
算定する場合は、対象職員の確認、賃金改善の計画、就業規則や給与規程との整合、報告期限の管理まで含めて準備しておきましょう。個別の判断は、管轄の厚生局や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
まとめ
- 福島県の薬局の78.8%(893軒中704軒)が調剤ベースアップ評価料を届け出ている
- 業界団体の調査の97.9%は大手チェーン中心の回答で、県内のすべての薬局を数えた数字とは対象が違う
- 大手チェーンはほぼ全店、中小の薬局は約3割が未届出。福島市の中小の薬局では62%
- 中小の薬局に転職するなら、届出の有無と、基本給・手当への反映のしかたを確認しよう
この数字は、名簿が更新されるたびに変わっていきます。2027年6月に点数が2倍になるタイミングなどで、改めて集計して更新する予定です。
なお、福島県の薬剤師の年収については令和7年賃金構造基本統計調査の記事でまとめています。あわせてご覧ください。
集計方法と注意事項
- 集計資料:東北厚生局「福島県 届出受理医療機関名簿(薬局)」
- 基準日:令和8年9月1日
- 分母:名簿に載っている保険薬局893施設(同じ薬局は1施設として集計)
- 分子:受理番号の欄に「調剤ベ」の記載がある704施設
- 規模の区分は、名簿に載っている調剤基本料の届出(調剤基本料1・2・3イ・3ロ・3ハなど)で分類
- 届出から名簿への掲載には時間差があるため、基準日より後の新規届出や変更は反映していません
- 本記事の割合は届出の受理状況から出したもので、実際の請求の割合ではありません

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