以前の記事で、薬剤師が転職活動をする際には「ベースアップ評価料を算定しているかどうか」を面接で確認することをおすすめしました。
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この記事を読んで「算定していない薬局は従業員を大切にしていないのでは?」と感じた方もいるかもしれません。
ただ、薬局側には薬局側の事情があります。今回は、あえて「ベースアップ評価料を算定しない」という判断をする薬局側の理由について、現場目線で正直にお話しします。転職活動中の薬剤師の方にとっても、相手の事情を理解した上で判断する参考になれば幸いです。
ベースアップ評価料は「薬局の利益」ではなく「賃上げの原資」
まず大前提として、ベースアップ評価料は薬局の利益を増やすための加算ではありません。制度の目的は、あくまで対象職員の賃金改善です。算定した分を薬局の収益として自由に使えるわけではなく、賃金改善に回す必要があります。
薬局経営者としては、単に「4点取れるから算定しよう」という話ではなく、その後にどの職員へ、どのように、いくら賃金改善を行うのかまで考える必要があります。
理由1:対象職員が1名しかいないと、給与バランスが崩れる
小規模薬局で特に問題になりやすいのが、対象となる職員が1名しかいないケースです。2026年度改定では、事務職員や40歳未満の薬局薬剤師が対象になる一方、経営者や役員等は除かれます。
実際に自薬局で対象者を確認すると「対象になる職員が1名だけ」ということも十分にあり得ます。その場合、次のような問題が起こります。
- 長く勤務している職員よりも、対象者だけが昇給する
- 責任の重い職員よりも、対象者だけが手当を受ける
- 他の職員から見ると、なぜその人だけ上がるのか説明しにくい
特に小規模薬局では、スタッフ同士の距離が近く、給与や待遇の変化が職場の空気に直結します。
理由2:「本当に上げたい職員」と制度上の対象者が一致しないことがある
薬局経営者としては、賃上げをするなら、貢献度や責任、勤務実態に応じて行いたいものです。長年薬局を支えてくれている職員、管理業務や新人教育を担っている職員、患者対応で大きく貢献している職員——そういった職員に報いたいと考える薬局は多いはずです。
ところが、ベースアップ評価料の制度上の対象者と、経営者が実際に評価したい職員が一致するとは限りません。このような場合、あえて算定しないという判断は「賃上げをしたくない」という話ではなく、職場全体の公平性を守るための判断とも言えます。
理由3:少人数薬局では、わずかな賃上げでも人間関係に影響する
小規模薬局ではスタッフの人数が少ないため、誰の給与が上がったのかが見えやすい環境です。対象者1名だけに手当や基本給の引き上げを行うと、他の職員から次のような不満が出る可能性があります。
- 「自分の方が長く働いているのに」
- 「自分の方が責任が重いのに」
- 「なぜあの人だけ上がるのか」
薬局経営において、スタッフ間の信頼関係は非常に重要です。数千円の賃上げであっても、それによって職場の雰囲気が悪くなれば、薬局運営全体にマイナスとなることもあります。
理由4:算定後の管理負担も小さくない
ベースアップ評価料は算定して終わりではありません。誰が対象職員か、どの賃金項目で改善するか、定期昇給とベースアップを区別できているか——こうした事務作業を経営者や管理薬剤師が兼務していることも少なくありません。
対象者が複数名いて職場全体の賃上げにつながるなら手間をかける意味は大きいでしょう。しかし対象者が1名で、かつ職場全体の給与バランスを崩す可能性がある場合、その管理負担に見合うかどうかは慎重に考える必要があります。
「算定しない=賃上げに消極的」とは限らない
算定しない薬局が必ずしも職員の賃上げに消極的というわけではありません。薬局によっては、評価料とは別の形で職員全体の処遇改善を考えている場合もあります。全職員の時給や基本給を少しずつ見直す、貢献度に応じた手当を整備する、賞与や福利厚生でバランスを取る、といった方法です。
ただし、転職活動中の薬剤師の方には正直に申し上げると、前の記事でお伝えしたように「算定していない理由」を面接で直接確認することが重要です。「対象職員が1名のため職場バランスを考えて算定していない」のか、「単に手間が惜しい」のかは、答え方でわかります。
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まとめ:小規模薬局では「算定しない判断」も経営判断の一つ
ベースアップ評価料は、薬局職員の賃上げを後押しする重要な制度です。一方で、小規模薬局では、対象職員が1名しかいない・職場内の給与バランスが崩れる・本当に評価したい職員と対象者が一致しない、といった問題が起こることがあります。
薬局経営において大切なのは、制度を使うこと自体ではなく、職員全体が納得できる賃金設計を行うことです。ベースアップ評価料を算定するかどうかは、対象職員の人数、給与バランス、職場の人間関係、将来の人件費負担を踏まえて、薬局ごとに慎重に判断すべきテーマだと思います。
小規模薬局にとっては、あえて算定しないという選択も、職場全体の公平性を守るための一つの経営判断と言えるのではないでしょうか。

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